研究室概要

主な研究課題Theme

「炎症抑制因子SOCS familyによる慢性炎症制御」(The Walter & Eliza Hall Institute of Medical Research, Blood Cells and Blood Cancer Division, Australiaとの共同研究)

慢性炎症は腫瘍、自己免疫性疾患、メタボリックシンドローム、動脈硬化症など多くの疾患と関連する研究分野です。 SOCS(suppressors of cytokine signaling)ファミリーは慢性炎症の抑制性サイトカインとして発見され、慢性炎症を克服するための主要標的の一つです。 Walter & Eliza Hall Institute of Medical Research はSOCS研究の世界的メッカであり、共同研究を進めています。

SOCS family間の遺伝子間相互作用に関する基礎的検討

SOCSにはCISおよびSOCS1〜7の8つのファミリー蛋白が知られています。 個々のSOCS familyについてはノックアウトマウスの作成により、それぞれの役割が急速に解明されてきています。 しかし生体内において各々のSOCSファミリーがどのように関連し合って働いているかは現在も不明瞭です。 このファミリー間の相互作用は、遺伝子のダブルノックアウトマウスを作成することで可能となります。
これまでSOCS1とSOCS3のダブルノックアウトマウスを作成し、解析することでこれらの生体内における相互作用を明らかにしました(PLoS One, 2016)。

自然免疫およびがん免疫におけるSOCS familyの役割

1995年のCISの発見以後、研究手法にも大きな技術革新があり、免疫学の概念も当時とは大きく変化しました。当時と比べてNK細胞の概念も確立が進み、免疫反応を制御するregulatory cellの概念もCD4細胞のみならずCD8 T細胞やB細胞まで拡大して来ています。これらの免疫細胞もSOCSファミリーと関与する可能性があり、研究の進展が期待されています。

近年、グループからCISががん免疫に大きく関与することを報告しました(Nature Immunology, 2016)。CISは従来、赤血球造血因子であるエリスロポエチンの抑制因子として知られてきましたが、CISノックアウトマウスではNK細胞のIL-15シグナルを介して抗腫瘍効果が飛躍的に高まっており、この研究はCISの発見から20年以上を経てその概念を大きく変えました。また、NK細胞の分化段階においてもSOCS3が大きく関わっていることも明らかになりました(Immunity, 2016)。

当研究室におけるSOCS研究

血液学や免疫学的な基礎研究と並行して、慢性炎症と造血幹細胞移植やメタボリックシンドロームなどの臨床病態との関わりを解明する研究を進めています。
現在、血液分野では特に、造血幹細胞移植の際に致死的になりうる合併症であるGraft Versus Host Diseaseの克服を目指しています。また、SOCSファミリーのノックアウトマウスを用いて、メタボリックシンドロームやその合併症を抑制可能な因子の探索を行い、SOCS3が高脂肪食負荷によるメタボリックストレスに対して腸内細菌叢の異常を抑制することで、炎症の発生を抑制していることを明らかとしました(iScience, 2021)。

「多血小板血漿による組織修復機構の解明」(新潟大学歯学部 川瀬知之 博士、新潟大学医学部整形外科教室および新潟大学工学部 田中孝明 博士との共同研究)

多血小板血漿(PRP)は創傷治癒や組織再生に有効であることが注目され、自己血由来の細胞療法としてスポーツ医学などの再生医療分野で利用されています。その作用機序としてはGrowth factorやケモカインに基づいた血管新生、細胞増殖、抗炎症作用などの複合的な作用機序が推定されています。しかしながら、その治癒メカニズムについては十分であるとは言えず、さらなるエビデンスの確立が求められています。研究室では前向き臨床研究のターゲットなる複数の因子を同定しています(Front Bioeng Biotechnol., 2023, IJMS, 2023, J Orthop Surg Res., 2022)。

血小板ポリリン酸に着目した画期的PRP療法の開発

ポリリン酸はDNA・RNAに続く第3のポリアニオン(多価陰イオン)とも評され、血小板では濃染顆粒中に蓄えられ、活性化により血小板外に放出されることが知られています。血小板ポリリン酸は凝固因子の活性化が最もよく知られた機能になりますが、血管新生や骨石灰化などの作用の存在が示唆されています。

我々の研究グループでは国内で唯一、血小板ポリリン酸の定量法を確立しており、血小板ポリリン酸を用いて組織再生における治療効果予測を行うとともに、基材開発により治療効果の向上を目指して研究を進めています(IJMS,2022, Physiol Rep., 2022)。

「細胞外マトリックスによる造血幹細胞移植における免疫制御機構の解明」(新潟大学医学部生化学教室 五十嵐道弘教授との共同研究)

固形臓器には多数の細胞が配置され、その間には細胞外マトリックス(extracellular matrix;ECM)という構造が存在し、「細胞同士を乖離しないように接着する」役割を果たしています。このECMは細胞間隙のみならず、個々の細胞表面においても存在しており、細胞間のコミュニケーションの物質群(成長因子、サイトカイン、ケモカインなど)に対して動態変化を与え、細胞自身の増殖・活性化に影響を及ぼしています。
我々はECMの中でも特にコンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate; CS)に着目し、ノックダウンマウスを用いた研究を進めてきました。実際に我々の研究グループではマウス造血幹細胞はコンドロイチン硫酸を多量に含み、syngenic bone marrow transplantationを用いたserial transplantationにおいて、骨髄細胞のCS減少がstemnessの低下に起因して骨髄再構築能の低下をもたらすことを明らかとしました(Experimental Hematology, 2021)。また、移植ドナー細胞のCS含有量がGVHDの重症度に大きく関わっていることを解明しました(Scientific Reports, 2023)。造血幹細胞移植後の様々な炎症に対するストレス応答や再生などの新たな知見を模索しています。

「高機能T細胞増殖性ペプチドの開発」(東京工業大学 門之園哲哉博士との共同研究)

ペプチドは低分子であることからペプチド自身が「揺らぎ」を起こしてしまい、標的分子との結合力低下をもたらしてしまいます。この問題を機能ペプチドを足場中分子ペプチドを組み込むことで大きく低減し、結合力を大きく高めたヒトIL-2受容体α鎖(CD25)に対する3種類のCD25高親和性ペプチド(CD25-BP)を設計しました(特願2021-97735)(Scientific Reports, 2021)。CD25-BPは安価かつ大量に調製できるため、これまでT細胞増殖に用いられていたIL-2や抗CD3/CD28抗体などのバイオ医薬品の代替医薬となる可能性を秘めています。CD25-BPのヒトリンパ球に対する影響を詳細に検討することで、CD25-BPの細胞工学への応用と実働化を目指しています。

メンバーMember

牛木 隆志(准教授・PI)(新潟大学医歯学総合病院 輸血・再生・細胞治療センター/血液内科 兼任)    ウシキ タカシ(Ushiki Takashi)

牛木 隆志

研究分野
ライフサイエンス( 細胞生物学 / 免疫学 / 血液、腫瘍内科学 / 栄養学、健康科学 / スポーツ科学 )

研究キーワード
血液学 輸血学 細胞治療 再生医療 造血幹細胞 造血幹細胞移植 移植片対宿主病 慢性炎症 多血小板血漿

論文・業績

石黒 創(新潟大学医学部医学科 特任助教)イシグロ ハジメ(Ishiguro Hajime)

研究分野
ライフサイエンス(内分泌代謝学 / スポーツ科学)

研究キーワード
慢性炎症 メタボリックストレス 糖尿病性神経障害

論文・業績

諏訪部 達也(新潟大学医歯学総合病院 助教)スワベ タツヤ(Suwabe Tatsuya)

諏訪部 達也

研究分野
ライフサイエンス( 血液内科学 )

研究キーワード
免疫学 移植免疫 ペプチド医薬

論文・業績

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